有限会社エコカレッジ

関係人口を創るネット古書店

週末ヒーローが少子高齢化を救う?島根県雲南市から始まった「脱カリスマ」の担い手育成

「週末ヒーロー」の可能性

 まちを支えるのは起業家や正統派リーダーばかりとは限りません。週末の兼業や、学業・子育ての合間で気軽に行っている活動だって、地域を支える貴重な存在のはずです。自治会など既存の活動に精を出す人もいれば、自分でサークルを作って困っている人々の支援を始めるような人もいます。小商いを始めてイベント出店しているような人も増えています。カリスマをもてはやすのもいいと思うのですが、そんな名もなき人にもっと注目すべきではないか。そこで、そうした人々を勝手に「週末ヒーロー」と呼ぶことにしました。
 そうした人々の輪が広がっていけば、創業機運だって高まるし、世の中を変えるような優れた取り組みも一定の確率で生まれていくだろう。もしかすると、少子高齢化の担い手不足を支える仕組みが作れるかもしれない。そんな経緯で、「週末ヒーロー」たちに出会い、ひたすら耳を傾けるのをライフワークにすることにしました。

週末ヒーローはどこにいるのか

 高齢化で若者も少ない中で、そんな人たちがどこにいるのと懐疑的な声もありましたが、周辺を見回してみるとヒーロー予備軍が結構いることに気づきます。会社はやめたいと思っているけれど、今すぐではなく、今は週末の空き時間でできる範囲でやってみたい。旦那がUターンするのにくっついて移住してきたので、旦那やその家族がいる手前あまり目立ったことができないが、片手間で始めたい支援活動がある。子育て中なので子供が優先だが、空いた時間に創作活動に取り組みたい。学生で地域活動に興味があり、通わせてもらえる現場を探している。
 で、そうした週末ヒーロー予備軍の人々が共通して抱えている悩みが見えてきました。「一歩を踏み出したいと思っているが、何から始めたらいいかわからない」「放っておけない身の回りの課題があるから何とかしたいけれど、モヤモヤしていてうまく説明できない」「友人や家族に相談しても”浮いた人・意識高い系の人”扱いされそうでとても言いだせない。相談したり励まし合える仲間がほしい」・・そんな人向けのゼミのようなものが開催できないか。偉い人やカリスマの講演会などもうお腹いっぱい。同じ目線でひたすら切磋琢磨できる場所を作るべきではないか。
 そして住民自治では日本でも草分け的存在であった島根県雲南市に関わりを持つようになり、2011年、次世代担い手育成の試みとして「幸雲南塾・地域づくり実践講座」がスタートしました。手探りから始めた担い手育成の試みは、一つのモデルとなり全国へ広がっています。

住民自治最先端地域の悩み

 島根県雲南市は、松江市と出雲市の南側に位置し、2004年に6町村が合併して誕生した人口4万人、市内ほぼ全域が中山間地域で過疎指定区域の地域です。面積は東京23区の9割にあたる553平方㌔。高齢化率は35%を超えています。
 雲南市は、住民による住民のための町づくりの仕組みとして「地域自主組織」によるまちづくりを進めてきたことで全国的に知られていました。小学校区単位を基本とし、市内を約30の自主組織に再編成。対象地区の地域振興、生涯学習、地域福祉等の課題解決を住民自ら行う仕組みができており全国から視察が絶えません。
 しかしそんな雲南市にも悩みがありました。自主組織により高齢社会を支え合うことはできているが、若い世代の担い手が明らかに少ない。そもそも若い人が少ないことに加え、若い人はこのような活動は遠慮しがちでした。自主組織の連絡会議においてもたびたび議題に上がるようになり、「ここは高齢者だけが頑張る町なのか」と発言が出るまでになっていました。
 そんな中、尾野のもとへ協力の打診があり、「若者をターゲットにしたまちの担い手発掘・育成をしていこう」と提案しました。当初は江津市のビジネスコンテストを雲南市でも導入できないかという想定だったようなのですが、プランを主張し合うコンテスト形式は奥出雲圏域の奥ゆかしい気質に合わないだろうと思い、担い手育成でいこうと関係者と対話を重ねていきました。そして地域課題解決を担う若者の育成塾「幸雲南塾・地域づくり実践講座」が2011年よりスタートしました。

ひたすら書いて、ひたすら喋る

 講座は基本的には月1日、半年間に渡って開催されます。その期間、自身が手掛けてみたいと思うことを自分なりの企画書として書き上げて、客観的に人前で説明できるようになるまでをゴールとします。世にも珍しい「起業しなくても良い塾」となりました。
 各回の講座はおよそ3時間、およそ10名の固定の塾生を募集し切磋琢磨していきます。前半がゲストトーク、後半が各自の発表というのが基本的な構成です。毎回1~2枚のプランシートが宿題として配布され、枠に沿って埋めていきます。それをもとに毎回内輪で発表し、塾生どうしでコメントし合います。シートは現在30種類を超え、進み具合によってその中から7~8枚を選んで埋めてもらいます。それくらいの枚数になってくると何となく企画書のようなものが出来上がっていき、多様な分野の塾生が互いに協力しあっているうちに様々な化学変化が起きてきます。
 運営側も何件創業したかなどは成果指標にせず、市内の関係者とつながる、お試しイベントをやってみる、無理のない範囲で活動を継続してもらうといった点を重要視しながら相談に乗ります。人によっては「緩い」「適当」と映ってしまうので説明には苦労しましたが、地域で小さな取り組みを手掛ける次世代の担い手を増やすためにはどうしたらよいか追求していきました。

100名の週末ヒーローの輪ができ、創業も相次ぐ

 一体何をのんびりやっている事業なのと言われながらも卒業生を輩出し続け、2014年には卒業生が主体となった中間支援NPO「おっちラボ」が創設されました。そして2017年には卒業生100名を突破、担い手の輪は着実に増えていきました。その半分以上が市内で活動を続け、市内のめいめいの地域で小さな取り組みを続けています。彼らの中で起業をしている人はごく一握りで、普段は普通の会社で働いている人ばかりです。当初目標としていた担い手不足の解消ははるか先ですが、ここまで来ると「どうやら若い人が市内のあちこちでいろんな活動をしているようだ」と認識され始めます。100名の週末ヒーローの輪を作ると豪語して尾野も笑われておりましたが、人口たった4万人の市に本当に100名の輪ができてみると、想像以上の熱気となりました。
 創業を成果指標にしていなかったのですが、思わぬ成果が生み出されました。2016年11月におっちラボがリクルート総研と共同で行った調査で「幸雲南塾」関連の取り組みで新規雇用が45名、経済効果にして2.2億円という推計が算出されました。
 筆頭は今や全国的な中山間地域予防医療のモデルになりつつある「訪問看護ステーション・コミケア」でしょう。移動距離が長すぎて採算が取れないと言われていた中山間地域の訪問看護事業を、タッチパネル情報端末をフル活用して事務の効率化を図ることで黒字化を実現しました。訪問記録は完全ペーパレス、車内で記録してデータ送信し、事務所に戻らず次の訪問先へ行ける体制を確立しました。若いU・Iターンの看護師や理学療法士が活躍しています。病院等に所属せず、地域の現場で予防医療や健康づくりに取り組む看護師を「コミュニティナース」と名付け、こうした働き方が全国に導入されています。
 その他にも家業を継承した事例や自営業者として独立して事業を営む若者など、これまでにない様々な働き方が島根の山間部に実現していきました。
 これらの取り組みが評価され、幸雲南塾やおっちラボの取り組みは平成29年度の「第8回地域再生大賞・準大賞」および平成28年度「第4回プラチナ大賞・総務大臣賞」に選定されています。(平成28年度で尾野はおっちラボの副理事長を退任していたので微妙なところですが、個人的には江津市に続き地域再生大賞2タイトル達成とひそかに自慢しております。3冠狙いたいなぁ・・。)

全国へ拡大、地域事情に合わせて形態も変化

 こうして幸雲南塾の担い手育成モデルは話題となり、各地に広がっていくことになりました。2014年に6ヶ所に広がると、2015年に13ヶ所、2016年に16ヶ所まで拡大していきました。その後、独自の企画に変化した、創業支援に特化した、定着せずに廃止したなど尾野も全てを把握しきれなくなったため詳細な統計を取らなくなってしまいましたが、週末ヒーロー発掘育成の試みは各地に広がっています。尾野が毎月通っているところだけでも、2019年には19ヶ所となっています。
 各地が抱える課題も様々で、雲南市モデルにこだわらずにそれぞれの地域事情に合わせて変化しているのも特徴です。雲南市のように自治・協働の担い手育成が主要テーマになっていることもあれば、災害のあった地域では防災・復興の担い手育成が大きなテーマになります。移住者や地域おこし協力隊の研修代わりになっていることもあります。都市部での開催も増えており、そうすると旧市街地再生や空き店舗対策が主要テーマになります。近年は福祉職員向けや行政の若手職員向け研修といった形態をとることもあれば、人生80年時代の本格的な到来を背景にシニアの社会参画を促進する講座として運営している地域もあります。
 複数年開催しているうちに開催形態が変化してくることもあります。雲南市は現在はNPO法人ETICと連携し、地方発の優れたソーシャルビジネス育成を目指す「ローカルベンチャー推進協議会」の旗振り役となっています。当初目指した担い手発掘の色は薄まり、積極的な事業拡大支援を行う場所へと変化しました。
 尾野はまだまだ週末ヒーロー予備軍の拡大に力を入れるべきと思ってたため事業拡大支援にはあまり熱意を持てず、変化するのも一つの流れかなと思い、自然と関わりが薄くなっていきました。そして担い手発掘育成がまだまだ必要とされている各地へ赴く機会が増えていきました。

週末ヒーローたちが複雑な地域課題に立ち上がる

 こうして展開していくと、「雲南市以外にうまく行っている地域は?」というのをよく聞かれます。雲南市でうまくいったのはよく分かったと。ただ、そこでしかうまくいかないモデルでは困る、そういう課題意識を持たれた方が多いことに気づきます。
 基本的には長くやってるとだいたいうまく行ってますよ、というふうにお答えしています。卒業生の輪が広がってくると、自然と何らかの化学変化が起き、創業件数や空き店舗再生実績につながったり、市民委員や各種イベントはほとんど卒業生が担っているといった状況が生まれています。
 具体的に挙げるとすれば、香川県高松市「地域づくりチャレンジ塾」、石川県加賀市「まちづくり学校・かがやき塾」、宮城県仙南広域「伊達ルネッサンス塾」、埼玉県越谷市「越谷チャレンジ講座」、岡山県社会福祉協議会が全県で開催する「無理しない地域づくりの学校」、広島県尾道市「若者チャレンジ講座」でしょうか。それぞれ5年以上の開催実績となっています。
 高松市では卒業生から10以上の非営利団体が発足し、複雑な社会課題の解決を図る担い手を輩出する拠点となっています。卒業生が主体となって設立されたNPO法人わがことが、市内40あるコミュニティセンターの振興計画づくりを担い、地域住民の参画と対話の場づくりに奔走しています。
 加賀市は中山間地域の課題もさることながら温泉地独特の右肩上がり時代の負の遺産も抱えた難しい地域ですが、ママさん発やUターン者発の優れたソーシャルビジネスが数多く生まれています。そして若い担い手が増えたことが市内のとある資産家を動かし、10万人規模の市では考えられない民間財団が創設され、設立から助成金公募までほとんどの業務を卒業生が担っています。
 宮城仙南、特に丸森町では2019年に豪雨災害により大変な被害が起きました。役場や社会福祉協議会など各機関がフル稼働で対応する中、伊達ルネッサンス塾の運営団体「ヨモヤマカンパニー」がボランティアセンター機能を担い、内外のつなぎ役として欠かせない存在となりました。
 尾道市は西日本豪雨災害で市内の広域が断水する事態が発生しました。市役所や関係機関がインフラ復旧に全力を注ぐなか、うちの地区シャワーあるからいらっしゃい、うちの地区井戸水が出るよ、と手が回らないところで「勝手に支援活動を行ってくれている人達がいる」と話題になりました。若者チャレンジ講座の関係者がかなり多かったようで、担い手育成が災害支援に欠かせないと判断され、財政難の中でもありがたいことに継続して予算を立ててもらっています(それと運営事務費に関しては瀬戸内のリゾート客船「ガンツウ」で有名な常石造船さんの懐の深さに大変助けられています)。
 長くやっているうちに各地で週末ヒーローの輪が生まれるんですが、とはいえ彼らも普段は忘れられた存在ですぐに目立った成果を出すわけではないです。ただ、災害時には滅法強かったりしますし、既存の手法では解決困難な社会課題に思わぬ力を発揮してしまったりすることもよく起こります。革新的な事業は「余白」から生まれるとよく言われますが、全くの脇役だった人々がうっかりとんでもない力を発揮してしまう。そんなのが当たり前になる世の中になったらいいなと思っています。

導入の流れ

 担い手の発掘育成を本格的に手掛けていきたいというお問い合わせも増えています。まずはどういったテーマで手掛けるか、どんな層を発掘するかといったことを一緒に考えていく作業が必要になります。地域が抱えている課題や、地域として持っていきたい政策の方向性など、関係者の方々に様々な面からヒアリングしていきます。
 担い手の発掘育成を関係者に周知したり、育成の機運を高めていくために単発で地域関係者向けに勉強会を開催することもよくあります。受講生のターゲットが掴めない場合にも、お試しで一度体験講座を開催してみると傾向が見えてくる場合が多いです。
 運営形態も決めていきましょう。行政主催で行くか、各関係機関で連携協議会形式にするか、地元団体やコンサルタントに運営委託をするか、それぞれの地域事情によって様々な運営方式がとられます。
 また、似たテーマや開催形態をとっている地域に一度視察に来てもらうと開催イメージがつかみやすくなります。開催地域同士で運営課題を共有したり、様々なノウハウを融通し合ったりできるようになると比較的ラクに開催できるようになります。周辺100キロ圏くらいのところで先行的に開催している地域があれば、塾生同士の交流なども進められることが多いです。
 その後、要項作成、受講生募集、ゲストの選定、各回のシート課題の選定、会場選びなど、各種業務をこなしていく形になります。ここではすべてを書ききれませんので省略しますが、運営のノウハウに関しては、岡山県社協での運営記録をまとめた『無理しない地域づくりの学校』(ミネルヴァ書房)、雲南市における実践記録や医療従事者が続々と移住してくる様子をまとめた『ローカルに生きる ソーシャルに働く』 (農文協・シリーズ田園回帰5)に詳しく掲載されています。よかったらご覧ください。

随時追加していきます

 急ぎで新コーポレートサイトに切り替えたため、全て書ききれませんでした。随時書き書きして追加していこうと思いますので思い出した頃に見てやってください。本で出せるくらいのボリュームにはなると思うんですが、全体像が見えてこないのでひたすら書き溜めていこうと思います。

記事欄に担い手タグを付けて、そちらに随時載せていきます。
記事はこちら。http://dp03010337.lolipop.jp/wp3/category/ninaite/
ある程度溜まったらまたこのページに盛り込み直すかもしれません。

お問い合わせの多いのはこんな内容です。早く書きたいと思っています。
・うまくいくケース、いかないケース
・起業塾の限界
・グループ発表ではなく個人戦の必要性
・頻発する「模造紙ワーク」へのアレルギー
・週末ヒーローについてもっと詳しく
・担い手育成について確立してきた技術、未確立の技術
・修了後の活動状況、起業する確率はどれくらいか

もっと詳しく

・竹端寛・尾野寛明 編著『無理しない地域づくりの学校 私からはじまるコミュニティワーク』(ミネルヴァ書房、2017年)・・具体的な運営手法や場作りで心がけていることなど詳細にまとめています。
・松永桂子・尾野寛明 編著『ローカルに生きる ソーシャルに働く 新しい仕事を創る若者たち』 (農文協・シリーズ田園回帰5、2016年)・・雲南市で起きた変化や、地域における中間支援組織の必要性など詳細に解説しています。

ページトップボタン